「熱さ」に伝染して

文学を探せ

文学を探せ

坪内祐三『文学を探せ』(文藝春秋を読了。故・安原顕氏のインターネット書評を批判した文章を読みたかったのだが、東川端三丁目さん http://d.hatena.ne.jp/thigasikawabata/ から、この本所収だと教えてもらった。

その文章はとても「熱い」文章だった。他にも文芸批評のみならず社会批評が「熱く」語られているものが多かった。自分の父親や生家に関わる出来事なども語られている。坪内氏は冷静な落ち着いた文章を書く人といった、自分の勝手な印象があったせいか、「熱い」言葉の数々がより私の心に深く入ってきて、印象に残る一冊になった。

この本には、坪内氏がヤクザ風の男に因縁をつけられ、暴行を受け、生死の境をさまよった事件についても書かれている。この連載は、その頃のものだったのか。

巷には暴力が溢れている。だが、大多数の人にとって、それは、テレビや新聞の向こう側の世界の出来事だろう。坪内氏にとっても、その瞬間までそうだったのではないか。

この本を電車の中で読み終え、帰宅すると、夜中なのに母が起きていた。心なしか顔色が青ざめているように見える。母から話を聞くと、電話で「今度会ったらただじゃすまないぞ」と恫喝され、「お前みたいな馬鹿と俺らみたいな最高学府を出た人間が話せるだけでもありがたいと思え」と侮辱されたともいう。「ヤクザみたいじゃないですか」という母の言葉に、相手は「俺はヤクザなんだよ」と答えたという。

何のつもりでそんなことを言うのかわからないが、当然、彼はヤクザではなく、記者であり、誰もが知っているマスコミに勤務している。坪内氏の本にもマスコミの記者の取材に対する批判があったが、一部には思いあがった横暴な人間がいるものだ。

心配を振りまくだけであるし、こんなプライベートなことを書くつもりはなかったのだが、坪内氏の「熱さ」が伝染してしまったのか、怒りのせいか、キーを叩く手が止まらなかった。やはり、向こう側の世界は、こちらの世界と地続きなのだ。とにかく、自分が強い気持で母を守っていかなければならないだろう。

いろいろなことを考えてしまい、朝までなかなか眠れず。