さびしいニュースいろいろ

翻訳家の浅倉久志さん逝去。浅倉久志という名は、SFに狂った人間にとっては特別な名前だ。国書刊行会から出た『ぼくがカンガルーに出会ったころ』はぽつりぽつりと読み進めているが、歩みを速めることなくぽつりぽつりを続けよう。それにしても幅広く、いろいろな作家を訳している。記憶にあるだけでも、ヴォネガット、ディック、コードウェナー・スミス、ラファティティプトリー・ジュニア、ギブスン…もちろんSF以外にもウッディ・アレンなど、ユーモアタッチのものも。あれは、『たったひとつの冴えたやりかた』だったか、訳者あとがきを書いている際にティプトリー・ジュニアの猟銃自殺の報に接したと書いていたのは。あれは印象に残っている訳者あとがきだった。読んでいない訳書もまだまだあるので、これからも氏の訳文には触れることも多いだろう。

そして、ディック・フランシスも逝去。息子との共作も好調だっただけに残念。別冊宝島の「ミステリーの友」でどなたかが(井崎脩五郎?)馬柱を模して、そのときまでの全作品を採点していたのを憶えているが、誰か全作品を振り返ってもらえないものか。「ミステリマガジン」で追悼特集が組まれるだろうから、それは買おう。競馬シリーズの行く末はどうなるのか。息子が単独で書き継ぐのだろうか。共作になってからの息子の貢献は大なのだろうが、フランシスの死後も競馬シリーズが続くというのはどうなのだろう。<書肆紅屋>さんhttp://d.hatena.ne.jp/beniya/が新刊書店でフランシスを探したが、なかったという。<ブックオフ>で一冊だけ見つけたのが、シッド・ハレーものの第3作『敵手』だとブログで書かれていた。いいのに当たっている。『敵手』は傑作だ。

金子光晴による看板で有名な吉祥寺の<さかえ書房>が閉店とのこと。いいお客さんではなかったが、吉祥寺は子供の頃から親しんだ街なので、古本屋体験としては自分に中ではかなり初期に位置する店。サンロードといえば、りんたろう監督の「幻魔大戦」を思い出す。その頃だっただろうか。

先日、昼食を食べていた店で、ご主人と話していた。近くの大阪寿司の名店<梅光>さんが年末で店を閉めた件。「<梅光>さんに15歳から50年働いていた職人さんが急に亡くなったんで、閉めたんですよ」とご主人が教えてくれた。「15歳から50年」なんていう世界が自分のそばにまだあったということに少し驚いたし、なにやらそれを知って嬉しい気持もあった。しばらく開いていないと思っていたいなり寿司屋さんについても尋ねると、「一年以上開いていませんね。足を悪くしたそうで、もう開くことはないでしょう」との返事。続けて言う。「こういう話が出たついでに言いますが、実は3月いっぱいで店を閉めることになりました。70まであと一年頑張るつもりだったんですが、大家さんがこの土地を手放すことになりまして」と、予想外の話を聞く。この店は15年ぐらい前に当時の上司に連れてきてもらって通うようになった店だ。その上司も5年以上前に亡くなった。

ここのとんかつやしょうが焼きが食べられくなるのはさびしいし残念だが、閉店まではできるだけ通おう。今日も行こうか。