駅のホームの風鈴と懲りない面々

foxsya2007-08-14

昨日から東北に来ている。昨年、亡くなった祖父の墓参りと、祖父が亡くなる直前に生じたわが家を襲ったトラブルを収拾させるため、弁護士の先生が作ってくれた文書を持ち、各所を廻っている。

もう一年以上が経つ。突然、襲いかかった傲慢な人間たちによる母やその兄妹への度重なる恫喝。母の身を案じ、私が彼らに相対することになったが、「あなたが頼りにしているご子息の知力、能力、財力では、しょせん我々の相手になりません」なんていう手紙が母に来た。

弁護士に交渉を依頼すると、「弁護士に依頼してもらってありがたいですよ。あなた方みたいな馬鹿な人間たちと直接じゃ話になりませんから」と、私の職場に電話をしてきた。そのくせ、舌の根も乾かぬうちに、母に電話をし、「なんで弁護士なんて頼むんだ!」とすごむ。

そんな彼らとの付き合い(といっても、ここ一年はお互いの弁護士を通してのものだが)も、やっともうすぐ終わるのか。

祖父の墓前に手を合わせながら、やっぱりここ一年の心身の消耗した日々のことを、どうしても考えてしまう。お墓に隣接する幼稚園の子供たちの元気な声が耳に入ってきて、少し前向きな気持になるが。

その後、母と金融機関をいくつか訪ねる。その中の一つでも、彼らは、職員を恫喝し、担当の方は心を病み、仕事を長期で休むことになったと聞いた。

本数が少ないローカル線を乗り継ぎ、祖母がいるグループホームに向かう。我々が誰かわからないのではないかとも聞いていたが、はっきりと認識して、訪問を喜んでくれた。身の回りもきちんとしていて、施設の人の印象もよく一安心だ。

おぼつかない足どりで、施設の外まで我々を見送る祖母に、施設の人たちも「こんなことは初めて」と驚いている。こんなに喜んでくれるなら、できるだけ時間を作って会いに来よう。東京に引き取るという選択肢もあるのかもしれないが、90年近く、この地に暮らしてきた祖母には酷というものだろう。

こんな祖母や、病床にあった祖父を、看護士らの前で、理不尽な理屈で、悪しざまに怒鳴りつけ続けたという彼らに対して、許せないという気持が湧き上がってくる。

トラブルに直接巻き込まれた人々は、彼らのそのような人間性を認識しているが、一方で、高潔な社会性の高いエリートを演じ切って(?)いることも腹立たしい。

そんな、自分の心を鎮めさせようとするかのように、真っ暗な夜の駅のホームでは、屋根に取り付けられた沢山の風鈴が涼しげな音を奏でている。祖母のことを思うと、涙がこぼれてくる。昔から人一倍涙腺が弱くて、どうしようもないのだ。

ホテルに戻り、いろいろなことを考えながら、いつの間にか眠ってしまった。

今日は、親戚と待ち合わせ、書類などを受け取るために、ホテルから市役所へ向かう。途中、町の書店で、地元のタウン誌を買う。これは、<書肆アクセスhttp://www.bekkoame.ne.jp/~much/access/shop/index.htm にも売っていないタウン誌で、以前、「本の雑誌」で取り上げられていたもの。確かに面白いし、意欲的だが、これで採算が取れるのか心配にもなる。

親戚が、地鶏を育てる名人として、グラビアに登場していて驚く。今度、是非、その地鶏を食べてみたい。その他にも、母の知人が多数、登場していたようだ。それだけ、狭い地域に限定した雑誌だということなのだろう。

この地での全ての用事を終え、新幹線の駅の近くの古本屋へ行く。野村宏平『ミステリーファンのための古書店ガイド』(光文社文庫)でチェック済の店だ。

ここで、ビリー・ワイルダー/キャメロン・クロウワイルダーならどうする?―ビリー・ワイルダーキャメロン・クロウの対話』(キネマ旬報)、有馬頼義『四万人の目撃者』(中公文庫)、井上ひさし編『ことば四十八手』(新潮社)を買う。

整理中の本の上に「古書月報」が乗っていたので、ご主人に許可を得て、読ませてもらう。<古書 往来座http://www.kosho.ne.jp/~ouraiza/ の瀬戸さんが寄稿していた。

携帯に友人の片野ゆかhttp://www.taiwankanko.com/yuka/ から電話があり、沖縄で映画を作っている井手裕一http://www.ryukyucowboy.com/ が宣伝のために東京に来ているので、飲まないかとのお誘い。今から新幹線に乗る旨を伝え、東京に着いたときに、まだ飲んでいるようなら合流すると伝える。

新幹線でビールを飲みながら、『ワイルダーならどうする?―ビリー・ワイルダーキャメロン・クロウの対話』を読む。高い本だが、もっと早く買って読めばよかった。面白い。版型や内容から、誰もが、フランソア・トリュフォー『映画術 ヒッチコックトリュフォー』(晶文社)を思い出すのではないか。装丁は和田誠で、もう少しPOPだが。

東京に到着し、飲み会をやっている浜田山に向かう。片野とその旦那の高野秀行さんhttp://aisa.ne.jp/mbembe/ と井手というメンバー。高野さんは、雑誌で、内澤旬子さんhttp://d.hatena.ne.jp/halohalo7676/ と対談をしたばかりで、来月、池袋の<ジュンク堂>で、二人のトークショーもあるとのこと。職場の研修と重なっていて、聞きに行けないのが残念。

海外から帰ってきたばかりで疲れ気味の高野さんは、先に帰り、残った3人で飲み。このメンバーならそうなるだろうと予想した通り、とことん痛飲。三人ともふらふらと千鳥足で帰宅。別れ際に、今度の金曜にまた飲もうと約束。自分も含めて懲りない面々だ。

高島俊男『座右の名文 ぼくの好きな十人の文章家』(文春新書)を読了。津田左右吉内藤湖南といった、ところどころで名前を見かけながら、通りすぎてきてしまった人たちが、どんな人なのかやっと確認できた(我ながら怠け者)。それにしても、冒頭で取り上げられている新井白石という人のユニークなことよ。こんな人だとは、高校でも予備校でも、教えてくれなかった。「本の雑誌」掲載の短文から、この本を作りあげた編集者に拍手。

座右の名文―ぼくの好きな十人の文章家 (文春新書)

座右の名文―ぼくの好きな十人の文章家 (文春新書)

※ 友人の片野ゆかの新刊ノンフィクション『ダイエットがやめられない―日本人のカラダを追跡する―』が新潮社から9/27に発売されます。興味のある方は、是非、お求めください。「波」10月号に角田光代さんが書評を書いてくれたそうです。
http://www.shinchosha.co.jp/book/305431/