『海炭市叙景』に出会うとき

佐藤泰志海炭市叙景』(集英社)を気長に探すとしても、せめて、岡崎さんが朗読してくれた「まだ若い廃墟」だけでも、全文読んでみたい。

昼休みに検索して探す。ネット古書店で1,2000円で売っていたが、これはパス。やはり、古書店で予期せぬ出会いをしてみたい種類の本だ。

全国の大学図書館で所蔵しているのは、7館のみ(全国で大学の数は、約800ぐらいだろうか)。「海炭市」のある北海道は北海道教育大など2館。東京では青山学院大の1館のみ。

海炭市叙景』について、検索していると、掲載誌が「すばる」であることがわかる。これは、すぐ見つかるだろう。雑誌記事の検索をすると、2年ぐらい前の「芸術新潮」に川本三郎さんが『海炭市叙景』について書いている。

図書館に行き、『海炭市叙景』の最初の章が載っている「すばる」と「芸術新潮」を借りる。「すばる」は帰りの電車でじっくりと読むことして、「芸術新潮」をぱらぱらとめくると、吉祥寺<トムズ・ボックス>のピン・バッヂの紹介記事が載っていた。

昨日、<トムズ・ボックス>の土井さんに、ピン・バッヂのことなど、いろいろお話を聞かせてもらったばかり。こういう偶然もある。

帰りの電車で、連作である『海炭市叙景』の最初の3編を読む。読み終わってから、最寄りの駅に着くまで余韻にひたる。この先は「すばる」で読むことも、無理に探すこともしない。

いつ、どこで、どんなシチュエーションで『海炭市叙景』に出会うことになるのだろう。楽しみだ。

高橋治『絢爛たる影絵 –小津安二郎-』(文春文庫)を読了。傑作だ。エピソード豊富で、某書が大量に引用したくなるのもうなづける。併録されている「幻のシンガポール」も表題作と味わいが違うが、こちらも傑作。シンガポールで押収された「風と共に去りぬ」を見て、フィルムの耳に音楽だけを録音し、画面に全く使っていないのを小津たちが知ったとき、戦争の敗北を彼らは確信する。松竹という会社がいかに「作品」を軽視していることか。戦後の作品である「東京物語」のオリジナルネガさえ、残っていないという。高橋治が松竹に在籍していたのは知っていたが、松竹ヌーベルヴァーグの一翼を担い、評価されていた監督だというのは、不勉強なことに知らなかった。

絢爛たる影絵―小津安二郎

絢爛たる影絵―小津安二郎