南田洋子の美しさ

CATVで『幕末太陽伝』を見た。石原裕次郎特集の一環としての放映。

邦画オールタイムベストワンに選ぶ人も多いぐらいだから、確かに面白かったが、「ベストワン!」叫ぶほどの思い入れは、私にとっては生まれなかった。

いくつかの落語の話(「居残り佐平次」「品川心中」「三枚起請」など。私の知らない噺も入っているに違いない)を一本にまとめ、スムーズな物語に仕立てた脚本は見事で、フランキー堺をはじめとする役者陣や、セットも素晴らしい。そして、才気を感じさせる川島雄三演出。川島監督は、映画のラストでフランキー堺演じる佐平次が駆けていくシーンで、セットからも、スタジオからも佐平次が出ていってしまうという演出で撮りたかった。しかし、周囲の反対で実現しなかったというエピソードを、森田信吾のコミック『栄光なき天才たち』で読んだことがある(元ネタは今村昌平の著書あたりだろうか)。それが実現していても、決して不自然な仕上がりにはならなかったように思う。もっとも、現在の眼で見ているからかもしれない(当時としてはかなり突飛なのか)。

可憐な芦川いずみ、美しい左幸子南田洋子らの女優陣も素敵だ。それにしても、南田洋子のあまりの美しさにびっくり! この頃の南田洋子の映画をもっと見てみたい。

北村薫『街の灯』(文藝春秋を読了。昭和7年の東京を舞台にした連作短編。運転手のベッキーさんがミステリアスだが、その正体はまだ明らかにされない。北村薫の文章は相変わらず素晴らしい。解説の北村薫論も読みごたえがあり、「砂糖合戦」の分析には目ウロコ(文庫版には未収録)。それにしても、「円紫さんとわたし」シリーズの続刊は出ないのだろうか。「わたし」に好きな人ができて、こちらは、やきもきしたままだというのに。

街の灯 (文春文庫)

街の灯 (文春文庫)