悪役相撲レスラーは笑う

自転車で永福町をぶらぶらする。すぐ近くの町なのに、たまに家と駅との往復をするぐらいで、最近、全く来ていない。小学生から高校生ぐらいまで自転車で走り回った路地を走るが、まるで見覚えのない風景。新しい家が多いから仕方がないか。

高校生までは、毎週のように来ていた永福図書館にも行ってみたが、図書館自体はそのままだったが、周囲の風景はやはりピンと来ない。図書館は閉まっていたが、あんなに大きく感じていた図書館の建物が、すごく小さく感じる。

ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を読んだのは、ここの図書館の蔵書を借りてだった。文庫ではなく、ハヤカワ・SFシリーズで、中央に「電気羊」が描かれた装丁はセンスがよかった。

受験勉強にも利用したが、長部日出雄『紙ヒコーキ通信』(文藝春秋)全3巻を、勉強そっちのけで、読んだのも覚えている。

自転車で流していると、大きな煙突が見える。大きな湯船でゆったりしたくなり銭湯に入ることにする。銭湯の代金400円を払い、手ぶらセット(タオル、石鹸、シャンプー、リンス、髭剃り、歯ブラシ)200円を買う。

浴場には大型テレビが設置され、湯船につかった人たちは大相撲に夢中。野球シーズンには巨人戦のナイターをきっと映すのだろう。女湯にもテレビはあるのだろうか。女湯では、どんな番組を映すのだろう(ナイターは喜ばれないような気がする)。小さな露天風呂につかっていると、浴場から歓声があがる。あとで、朝青龍白鵬の優勝決定戦が決まったときの歓声とわかる。

シャワーで頭や体を洗ってから、湯船につかって優勝決定戦を見る。電気風呂というスペースが空いていたので、おっかなびっくり、お湯に手を触れてみるが、とても自分には耐えられない刺激だ。二度とごめん。

優勝決定戦が始まり、白鵬が土俵から押し出されそうになると、女湯から、複数の「きゃー!!」という悲鳴があがる。女湯も相撲が映っていて、皆、白鵬を応援しているようだ。朝青龍は、やっぱりヒールなのか。そんな女性たちの思いは届かず、朝青龍の優勝。

「『君が代』にモンゴルの旗って変だよね」という番台のおばさんの声を背に銭湯を後にした。

堂本正樹『回想 回転扉の三島由紀夫』(文春新書)を読了。著者の「彷書月刊」先月号のインタビューが面白かったので手にとってみた。先日、松本健一の『三島由紀夫 剣と寒紅』裁判を批判する 文学を裁く法の論理」を読んだので次のような箇所が印象に残った。

パーティーで、人が集まらず、三島がいらいらし、一人になっているときに、村松剛が著者に「ほら、三島さんを一人にしちゃいけない。君がそばについていなくては」という。「それなら親友の貴方でしょう」と返すと、「いや、こういうときは同じシンユーでもウ冠にかぎる」と言い、著者の背中を押す。ウ冠とは三島の秘語で「寝友」のことだという。著者は書いている。「こういう事を言いながら、後で村松が『三島由紀夫の世界』を書いて、三島の同性愛を否定したのは、文芸評論家としては自殺行為だろう」と。